コーナー9「-100,-75,-50,-25, 0, +25」

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現在、新型コロナウイルスの感染拡大が、私たちの仕事や学び、そして暮らしを大きく揺さぶっています。
しかし、苦難の時代に生きているのは、私たちだけではありません。
100年前、75年前、50年前……私たち人間は、それぞれの時代を、それぞれの苦難に向き合い、精一杯生きてきました。
今回の特集は、過去を振り返ること、今を見つめること、そして未来を考えることがテーマとなっています。
「本」が、私たちの「これから」を考える出発点となることを願っています。

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今から100年前、日本を含めた世界は現代とよく似た状況にありました。のちに”人類最悪のパンデミック”と称されることになる「スペイン風邪」の流行期です。当時の世界の人口の3割にあたる5億人が感染、4千5百万人が亡くなったとされています。東京駅や日銀本店を手掛けた建築家であり、『東京、はじまる』の主人公・辰野金吾もスペイン風邪に罹り、1919年に亡くなっています。

金吾はおきあがれない。 それをこころみることも、もうできない。苦しげな息とともに 「曾禰君」 「何だね」 「俺は、逝く」 「…………」 「逝く前に、これだけは聞かせてくれ。君はなぜ」 と、そこで激しい咳をしてから、 「なぜ俺に、東京駅をゆずった」 十五年ごしの疑問である。冬風が哭くような声だった。

『東京、はじまる』 より




今から75年前の8月15日、長かった戦争が終わりました。75年という年月が経ち、戦争を体験した方の高齢化が進み、戦争の記憶は過去のものとなりつつあります。『魔女の宅急便』で知られる児童文学作家・角野栄子さんの小説『トンネルの森1945』は、10歳の少女の目を通して見た、経験した、感じた戦争を描いた作品です。一人の少女の視点から、「平和」について考えてみませんか?

「神風が吹くから…………」 まだそう言う人もいる。自分が安心したいから言っているんだ。私は神風は当てにならないと思うようになった。吹くんだったら、セイゾウさんが受けた大空襲の前に吹いてほしかった。神風どころか、また「特殊爆弾」が長崎に落ちた。 どうしてこんなことになってしまったのだろう。私の周りは、だれひとりとして幸せな人はいない。誰かが死に、誰かが行方不明。誰かが怪我をしている。そして、みんながお腹をすかせている。

『トンネルの森1945』 より


今から50年前の3月14日、”人類の進歩と調和”をテーマに日本万国博覧会が大阪で開幕しました。一方、同年3月に「よど号ハイジャック事件」が発生、11月には作家・三島由紀夫が自決するなど、華やかな祝祭の陰で、多くの事件が発生する年となりました。『トワイライト』は校庭に埋めたタイムカプセルを開けるため、同窓生が再会する場面からはじまる小説。「あの頃の未来」を遡る一冊です。

「あとは、どんなのが入ってるんだ?」と徹夫がビニール袋から取り出したのは、高さ十五センチほどの置物だった。 「なんだっけ、これ万博のときのだよな」 「そう。太陽の塔」 「小学生の頃だったっけ、大阪の万博って」 「一九七〇年だから、二年生のとき」 「一九七〇年っていうと、昭和45年か。センバツが箕島で、夏は東海大相模だな」

『トワイライト』 より




今から25年前の1月17日、阪神淡路大震災が発生し、6434人の命が奪われました。同年3月20日には、地下鉄サリン事件が発生。2つの大きな出来事のあった1995年は、何らかの意味を持つ年だったのかもしれません。小説『95』に登場する男子高校生の姿には、眩しさを感じる人も多いはず。また、この年の11月「Windows95」が発売。以降、インターネットが急速に普及していきます。

日本版”ウインドウズ95″の発売で沸きに沸いた11月23日、金曜日。真冬のような冷たい風が吹いていたこの日もそうだ。学校が終わり、バイトにデートにと散っていった仲間たちと別れ、僕は代々木の道場に向かった。

『95』 より



今年、2020年は「コロナ危機が起きた年」として歴史に刻まれる年となりそうです。『仕事本』は、77人の様々な職業の人たちによって、2020年4月に書かれた日記をまとめた一冊。それぞれの暮らしや価値観、そして仕事を見つめる毎日が丁寧に綴られています。今、ウイルスは、私たちに多くのことを問いかけています。転換点に立つ私たちは、何を選択し、この先どのような道を歩んで行くのでしょうか。

4月20日(月) 雨の日曜日。数日分のゴミをまとめて捨てる。ゴミ収集車がちゃんと来てくれることがつくづくありがたい。あたりまえと思っていることのほとんどが、誰かのおかげで成り立っていることをふだんからもっと意識しなくてはと反省する。風呂上り、足ふきマットがこざっぱりとしていて、気持ちよかった。U介氏がいつのまにか洗って干しておいてくれていた。

『仕事本 わたしたちの緊急事態日記』 より



さて、未来はどうなるのでしょうか?現時点で分かっていることは、2112年にドラえもんが誕生することだけ……まだ先の話です。『小説 映画ドラえもん・のび太の月面探査記』の中で、ドラえもんは”人への思いやり”について話しています。ドラえもんの言葉は、未来からのメッセージかもしれません。2112年、ドラえもんに笑顔で出会えますように。未来をワクワクさせる、10代のあの人達の本もご紹介します。/p>

ルカは黙って唇を噛んでいた。悔しい、悔しい、悔しい。だけど、あまりのことに言葉が出てこない。するとその時だった。 「違う!」というはっきりとした声が聞こえた。 ドラえもんがみんなの前に歩み出る。 「想像力は未来だ!人への思いやりだ!それをあきらめた時に、破壊が生まれるんだ!」 「ドラえもん…………」 のび太とルカが、ドラえもんの背中を見つめる。

『小説映画ドラえもん のび太の月面探査記』 より

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